液体ロケットエンジン開発における前提条件の整理
いきなり作らない理由と、製作の前に決めておくべき前提条件を整理する。
(2026-06-21 更新:世界動向と試験地の制約を踏まえて何度か書き直しています。最新版が以下)
本プロジェクトの目的
最終的な目標は、数kgの物資を打ち上げられる小型ロケットを自作する ことです。
本ロードマップ(STEP0〜10)が扱う範囲は、その手前の 液体ロケットエンジン単体の開発と、地上・水平・固定状態での燃焼試験 までです。
機体への統合、飛翔系の設計、実際の打ち上げは、このロードマップの外で別フェーズとして扱います。
エンジン単体に持たせる機能:
- 遠隔操作による点火
- 短時間の安定燃焼
- 推力調整(スロットル)
- ジンバル機構による推力方向制御
エンジン単体の挙動と制御を理解することがこのフェーズの主眼で、現段階では飛行、鉛直噴射、高効率・高推力化は扱いません。
制御を1基目から積む方針
「まず燃やす」よりも 「制御された推進系を理解すること」 を優先し、1基目から推力調整機構とジンバル機構を載せます。
(世界動向を踏まえてこの方針に至った経緯は 第2回 を参照)
ハードウェアは1基目から全部載せるが、燃焼試験では機能を一つずつ有効化する——固定推力で点火確認 → 推力調整を有効化 → ジンバル有効化、の順で進めます。
成功条件
最優先は 安全に点火・燃焼・停止できること。
そのうえで、推力増減とジンバル動作が確認でき、試験後に主要部品が再使用可能であること。
性能や燃焼時間よりも、「制御できている」「止められる」こと を最優先とします。
フェーズ戦略:まずコールドフローを通す
試験地として確保できているのは約 10m × 10m の私有地で、液体ロケットエンジンの燃焼試験を行うには狭すぎます。
そこで本プロジェクトの第一フェーズを、以下のように定義しています:
コールドフローテストまでを完璧にやり切る。
ホットファイア用の試験地はその間に確保する。
機構・配管・バルブシーケンス・緊急停止・計測系のほぼ全てを、実際の推進剤の代わりに 水(燃料側)と窒素(酸化剤側) で検証できます。
エンジンの制御系と機構を、ホットファイアに入る前に完成させる。
「コールドフロー優先」は二重の方針を含みます:
- 試験地確保の時間を稼ぐ——ホットファイア地の確保が済むまで、燃やさない工程を進める
- 燃やさなくてもできる検証は全部先に潰す——実燃焼段階では既知の問題を持ち込まない
ホットファイアに必要な試験地は、別タスクとして並行調査中です。
技術的な前提
- 推力 100N(約 10kgf)級
- 燃焼室圧 20bar
- 推進剤 エタノール/GOX(高圧の気体酸素)
- 推進方式 圧力給送式(燃料側は N₂ 加圧、酸化剤はボンベ自圧)
- 冷却 無冷却ヒートシンク
- 点火 電気スパーカー
- 短時間燃焼(0.5秒 → 段階的に最大15秒)
- 構造的・機械的に「止まる」設計を優先
性能を追求するのではなく、シンプルで挙動が分かりやすい構成 を選択します。
酸化剤に LOX(液体酸素)ではなく GOX(気体酸素)を選んだのは、入手性と極低温取扱の回避の2点が決定的です。
100N という小推力は、燃焼室の加工性・推進剤消費量・事故時の被害規模のいずれの観点でも、研究用として適切と判断しました(詳細は第5回 設計仕様書v0.1)。
参照する基準・前例
「ゼロから自己流」ではなく、以下の蓄積の上に立って判断します。
- 法規:火薬類取締法・消防法・高圧ガス保安法(詳細は 第3回)
- モデルロケット併用時:日本モデルロケット協会(JAR)自主消費基準
- 技術文献:Sutton & Biblarz Rocket Propulsion Elements、NASA Technical Reports Server、Cantera(化学平衡計算)
- 先行する素人・学生プロジェクト:BPS.space、UAH Tartarus、ASU Sun Devil Rocketry、Copenhagen Suborbitals の初期失敗レポート
確定したこと
- 長期目標:数kg級の物資を打ち上げられる小型ロケットの自作
- 本ロードマップの範囲:エンジン単体の開発+地上・水平・固定での燃焼試験まで(機体統合・実打ち上げは範囲外)
- 開発対象:液体ロケットエンジン単体
- 試験姿勢:地上・水平・固定状態
- 推力:100N(約10kgf)級
- 燃焼室圧:20bar
- 推進剤:エタノール/GOX
- 推進方式:N₂圧力給送+ボンベ自圧
- 冷却:無冷却ヒートシンク
- 点火:電気スパーカー
- 燃焼時間:0.5秒 → 段階的に最大15秒
- 1基目から搭載:ジンバル+推力調整
- 第一フェーズの完成形:コールドフローテスト通過
- 実験場所:私有地(コールドフローまで)
- 加工:外注前提
- 体制:2〜3人
残課題
- ホットファイア用の試験地の確保(コールドフロー期間中に並行調査)
- 各サブシステムの設計詳細(次の STEP 以降で扱う)