Development Log · upd

2026年・世界の液体ロケット開発と私たちの立ち位置

2025〜2026年の民間液体ロケット開発の到達点を調査し、自プロジェクトの設計思想を再評価する。

商用領域:2025〜2026年に何が起きたか

直近1年だけでも、民間液体ロケットの現場は大きく動きました。

本記事は民間の液体ロケットに焦点を絞り、政府系(SLS、H3、Ariane 6 など)や固体・ハイブリッド推進は範囲外としています。

本セクションと大学・アマチュア領域は、生成AIによる情報を元にまとめています(公開ソースで照合)。

スケール比較

プロジェクト 国/企業 全長 LEO能力 再使用性 推進剤
Starship V3 米 / SpaceX 約124m 100〜150t 完全再使用(開発中) メタン/LOX(FFSC)
New Glenn 米 / Blue Origin 98m 45t 一段目再使用 メタン/LOX(一段目、上段は液体水素/LOX)
再使用型実験機 日 / Honda 6.3m 実験機(軌道級ではない) 完全再使用(試験) メタン/LOX
Nova 米 / Stoke Space 40.2m 約7t(使い捨て時、再使用時 約3t) 完全再使用(開発中) メタン/LOX(FFSC)
Spectrum 独 / ISAR Aerospace 28m 約1t 使い捨て プロパン/LOX(Aquila)
Neutron 米 / Rocket Lab 42.8m 13t(ダウンレンジ着陸時) 一段目再使用(開発中) メタン/LOX
ONE 独 / RFA 30m 1.6t(SSO 1.3t) 使い捨て 灯油/LOX(段燃焼)
ZERO 日 / IST 約32m 約800kg 使い捨て 液化バイオメタン/LOX
朱雀2号 中 / LandSpace 49.5m 6t 使い捨て メタン/LOX
Agnibaan 印 / Agnikul Cosmos 約18m 約300kg(最大構成時) 使い捨て 灯油/LOX(3Dプリント)

SpaceX / Starship V3(2026年5月22日)

新世代V3の初飛行を実施(※1)。
Ship は模擬Starlink衛星22基を投下し、再突入後にインド洋へソフト着水。
Super Heavy は Boostback 燃焼失敗で喪失。
V2からの主要変更は Raptor 3 換装により V2 比で LEO 再使用ペイロード 35t→約100t に。

Blue Origin / New Glenn(2025年〜2026年)

2025年1月に初飛行、11月には2号機がドローン船への着陸に成功(※14)。
2026年4月に上段の失敗、5月28日には試験機の爆発事故が発生。

Honda / 再使用型実験機(2025年6月17日)

北海道大樹町で、全長6.3m・乾燥重量900kgの実験機を271.4mまで打ち上げ、目標から37cmの位置に着陸(※2)。
飛行時間56.6秒。

Stoke Space / Nova

完全再使用を掲げる米Stokeは、2024年6月にFFSC(フルフロー二段燃焼サイクル)エンジンのホットファイア試験を完了(※3)。

ISAR Aerospace / Spectrum(2025年3月30日)

ノルウェーAndøyaから、欧州大陸初の軌道級ロケットを打ち上げ(※4)。
ただし離床後、約30秒で姿勢制御を喪失し発射台近くの海上に落下。
原因はベントバルブの意図しない開放とロール制御の喪失。
CEOは「全ての期待を満たした成功」と公式に発表。

Rocket Lab / Neutron

部分再使用の中型機。
2026年1月、水圧試験中に第1段タンクが破損(※5)。

RFA / ONE

ドイツRFAは2024年8月のスタティックファイアテストで爆発事故。
2025年1月に英CAAから運用ライセンスを取得し、Saxavord射場に第1・第2段を搬入済み(※6)。

Interstellar Technologies / ZERO(北海道)

液化バイオメタンを燃料に60kN級燃焼器の試験に成功(※7)。
バイオメタンでの燃焼試験を公表しているのはESAに次ぐ世界2例目、民間では世界初。

LandSpace / 朱雀2号(中国・藍箭航天)

2023年7月、世界初の民間メタン/LOX軌道打ち上げに成功(※12)。
SpaceX Raptor 系より先に民間メタン軌道級の商業運用フェーズに到達。

Agnikul Cosmos / Agnibaan(インド)

世界初の3Dプリント一体成型液体エンジンでサブオービタル打ち上げに成功(※13、2024年5月)。
Agnilet エンジンは燃焼室・インジェクター・冷却系までを金属積層造形で一体化。


大学・アマチュア領域:もうひとつの現実

スケール感の対比のため、学生・アマチュアの液体ロケット活動も見ます。

活動比較

商用と比較軸が異なるため、発展段階と現時点のスペックで並べます(LEO能力や再使用性は学生プロジェクトでは情報量が乏しいため省略)。

プロジェクト 国/大学 段階 燃料 主要達成/スペック
Big Dumb Rockets 米 / CU Boulder エンジン燃焼 エタノール/N2O 大型液体エンジン点火成功、2026年 Rookie of the Year
Sun Devil Rocketry 米 / ASU エンジン燃焼 IPA/LOX 推力300 lbf、2025年4月に初ホットファイア
Limelight 米 / Michigan MASA エンジン燃焼 → 打上目標 RP-1/LOX Phoenix エンジン推力3,000 lbf、22秒フルデュレーション、目標高度15km
Tartarus 米 / UAH エンジン燃焼 エタノール/LOX Prometheus エンジン推力280 lbf(約1.2kN)、2017年発足

CU Boulder / Big Dumb Rockets

エタノール/N2O の再生冷却エンジンをスタティックファイアテストで点火に成功(※8、2025年4月)。

ASU / Sun Devil Rocketry

IPA/LOX 液体エンジンで初のホットファイア(推力300 lbf、2秒燃焼)に成功(※9、2025年4月3日)。

Michigan MASA / Limelight

約2階建ての高さのロケットを5万フィート(約15km)に到達させるため、RP-1/LOX の Phoenix エンジン(圧送式・再生冷却、推力3,000 lbf)で22秒フルデュレーション燃焼を完了(※10、2025年6月)。

UAH / Tartarus

エタノール/LOX の Prometheus エンジン、推力280lbf(約1.2kN)(※11)。


技術的な共通項

事例を横に並べると、業界規模や予算を問わず共通するパターンが浮かびます。

(a) 業界規模を問わず「タンク」と「初飛行30秒」で詰まる

Rocket Labのタンク破損、RFAのスタティックファイアテスト中の爆発、ISARの初飛行30秒での姿勢制御喪失。
燃焼室より先に、タンク・配管・姿勢制御で詰まるのが現実です。
これは私たちのロードマップで言うとテストスタンドの構築とコールドフローテストの領域。
この領域を先送りしたプロジェクトは、同じ地点で足を止めています。

(b) 「最初から液体+ジンバル」は学生水準を超える

CU Boulder、ASU、UAHのような数十人・数年単位の学生チームでも、
「液体エンジンを安定して燃やす」までに5〜10年かかっています。
そのうえでジンバルや推力可変まで踏み込んでいる学生プロジェクトはほぼ存在しません。

私たちの「最初から液体+ジンバル+スロットル」という設定は、世界の液体ロケット学生プロジェクトの前例と比べて野心的すぎる可能性があります。

(c) 燃料選択の重心が移っている

ケロシン(RP-1)からメタン系(バイオメタン含む)への移行が顕著です。
SpaceX Raptor、Stoke FFSC、IST ZEROがいずれもメタン系。
理由はクリーン燃焼・低コーキング・再使用との相性。
ただしアマチュア規模ではアルコール系(エタノール・IPA など)+LOX/N2O が主流で、本記事に挙げた学生4団体のうち3団体(CU Boulder、Sun Devil、UAH)がアルコール系を採用、ケロシン系は MASA の1団体のみ。
ケロシン前提だった初期検討はここで見直しが必要になった。
アマチュア規模でケロシンが不利になるのは、まず RP-1 相当の高純度ケロシンが個人入手ほぼ不可で、代替の家庭用灯油では性能・清浄性が落ちる点。
実例数の差も明確で、本記事のサンプルでもアルコール系が3対1で優勢。

(d) 3Dプリンティングが加工の射程を変えた

Rocket Lab の Rutherford エンジン、Relativity Space の機体構造、Agnikul の完全一体成型燃焼室。
液体エンジンの主要部品を積層造形で作る流れが定着しつつあります。
かつては旋盤・ミリング加工が必須だった燃焼室・インジェクター・熱交換器が、DMLS/SLM 印刷サービスを外注すれば手に入る時代になりました。

アマチュア規模でも、複雑形状のインジェクタや冷却チャネルが手の届く技術です。
私たちが「加工は外注前提」で進めているのはこの流れに乗った判断。


自プロジェクトの設計思想を、いま一度評価する

液体推進の路線で、2つの選択肢を検討しました。

案A:当初計画通り(液体+ジンバル+スロットル)

  • ◯ プロジェクトの独自性が最も高い
  • ◯ 「再使用文脈の制御を理解する」という初期目的に最も忠実
  • × 世界の学生・アマチュアでも前例がほぼなく、完了までの時間が読めない
  • × どこか1要素で詰まると全体が止まる構造

案B:液体だがジンバル/スロットルは後回し(まず「燃やす」に集中)

  • ◯ 多くの学生チームと同じ路線で、知見・部品リストが流用しやすい
  • ◯ 初期燃焼試験までの距離が最短
  • × 「再使用前提の制御」という当初コンセプトが薄まる
  • × プロジェクトの独自性も薄まる

現時点の暫定判断

完全に決め切りはしないが、現時点の暫定方針は「案A + 案Bの保険」。
メインは当初計画通り、液体+ジンバル+スロットル(案A)を目指す。
同時に、設計フェーズだけは案B版(ジンバル・スロットルを後回しにした最小構成)も並行して描いておく。

燃料はケロシン系を第一候補から外し、エタノール/LOX を第一候補、メタン系を第二候補として再検討する。
TVCの制御ロジックについては、液体エンジンの完成を待たずに、市販の固体モータや模擬推力源で先に検証する。

最も避けたいのは、ジンバルもスロットルも盛り込んだ完璧な設計を3年描いて一度も燃やせないまま終わる展開。
案Aを目指しながら、いつでも案Bに切り替えられるブランチを残しておく、というのが今回の結論。


確定したこと

  • 戦略方針:案A + 案Bの保険(→ 第5回で 案A単独 に確定)
  • 燃料再検討の方針:ケロシン系を第一候補から外し、エタノール/LOX(第一候補)とメタン系(第二候補)を再検討対象に(→ 第4回で最終確定:メタン系除外、灯油/LOX を第二候補に。第5回で酸化剤を GOX に切替)
  • テストスタンドとコールドフローに過半の時間を割く方針は世界基準でも妥当
  • 試験順序:制御ロジックは液体エンジンを待たずに、市販の固体モータや模擬推力源で先行検証

残課題

  • 燃料の最終確定(→ 第4回で扱う)
  • 案Aから案Bへの切替判断条件が未定義

参考リンク

※1: SpaceX Starship V3 debut test flight - CBS News

※2: Honda Conducts Successful Launch and Landing Test of Experimental Reusable Rocket

※3: Stoke Space Technologies Extends Previously Announced Series D Financing to $860 Million

※4: Spectrum’s qualifying second launch - ESA

※5: Rocket Lab delays Neutron debut to late 2026 - SpaceNews

※6: RFA Begins Final Preparations for Inaugural RFA ONE Launch - European Spaceflight

※7: 小型人工衛星打上げロケットZERO、エンジン燃焼器単体試験に成功 - Interstellar Technologies

※8: Successful student-built liquid rocket engine test - CU Boulder

※9: Liquid Rocket Propulsion - Sun Devil Rocketry

※10: Student-designed engine for future two-story rocket passes final engineering milestone - Michigan Engineering News

※11: Tartarus - Space Hardware Club, UAH

※12: Zhuque-2 - Wikipedia

※13: Agnikul Cosmos launches world’s first single-piece 3D-printed rocket engine - Space.com

※14: Blue Origin New Glenn: Setbacks and Recovery Path - SpaceNews